勝てば6大会連続のワールドカップ出場が決まる日本代表。同じく勝利で出場が決まるオーストラリア代表をホームに迎えた大一番は2-0で見事日本代表が勝利。これでJFAも20億円失わずにすみました。よかったよかった。
試合は両チーム中盤でミスが相次ぐやや退屈な展開。日本代表はオーストラリア代表に対し最終ラインまでマンツーマンでプレッシャーをかけボールを奪ってショートカウンターを狙うもロングキックで逃げられる。日本代表がロングキックを制していたので日本代表ペースで進みましたが、ハリルホジッチ監督の狙いとは違った様子。たぶん前でボールが取れると踏んでいたのでしょう。ロングキックはいつ事故が起こるかわかりません。もしくは体力的な事情からもともと始めだけの作戦だったのかもしれませんが、日本代表は試合途中で作戦を変更し、両サイドのフォワードがオーストラリア代表の両ワイドをケアする形になりました。
ここでオーストラリア代表は試合を優位に進めることができるようになります。オーストラリア代表の3バックの両サイドはほとんどプレッシャーを受けることなくボールを捌ける。しかも中盤において、オーストラリア代表は3トップの両サイドが中盤に参加するため中盤に4枚選手を配置しているのに対し、日本代表は基本的にディフェンスラインもあまり前に出ず3枚の中盤だけで対応。どうしても中盤でオーストラリア代表(特に長谷部誠選手の反対側)が1枚フリーになってしまう。両サイドバック+中盤一人の3枚がフリーでボールを繋げるオーストラリア代表はやりたいサッカーをやることができたのです。しかし、これが日本代表の作戦でした。
過去何度となく苦しめられてきたロングボールを蹴られたくない日本代表。オーストラリア代表もまた磨いてきたショートパスをつなぐサッカーがしたくてロングボールなんか蹴りたくない。相思相愛の関係だったはずが、日本代表のいらぬ前線からのプレッシャーにより両チームが望まないロングボール戦術に陥りそうな崩壊寸前の両チームの関係。日本代表が前線のプレッシャーを減らし中盤にも隙を見せたことで、両チームが望むショートパスのオーストラリア代表をオーストラリア代表が望む形で復活させたのです。悪い男たちやで。
さらに日本代表は、オーストラリア代表の最終ラインや中盤に選手を置かない分日本代表の最終ラインに多くの人数を配置する事になります。これでますますオーストラリア代表はロングボールを蹴りづらくなり、自分たちが望むショートパスサッカーを自らが選択していたかのように錯覚しながら知らず知らずのうちにショートパスサッカーにさらに引きずり込まれていったのです。ひどい男たちだ。
そういうわけで、試合はオーストラリア代表のペースに見えた日本代表の想定どおりの展開。あとは日本代表がどうやって攻めるかという点ですが、これが難しかった。
ワントップに入る大迫勇也選手にボールは収まるものの守備に重きを置く日本代表は飛び出していく選手が乾貴士選手程度しかおらず、大迫選手は孤軍奮闘状態。オーストラリア代表はショートパス作戦のほか、日本代表の中盤でボールを奪ってショートカウンター作戦も兼ね備えていた(ポゼッションチームは必然的にそうなる)ため、プレッシャーを受ける日本代表中盤は守備的な選手が多かったこともありうまくボールが繋げない。日本代表もオーストラリア代表がショートパスをつないでいるときに中盤でインターセプトしてショートカウンターに移行したいところでしたが、作戦上人数不足もありうまくいかない。ただ、一つだけ、オーストラリア代表のシステムには明らかな弱点があったため、日本代表はうまく得点を上げることができました。
現代サッカーでは通常343ダブルボランチシステム(いまどきアヤックスシステムはアヤックスすら使わないらしい)を採用するとき、守備の際は両サイドのフォワードが下がり541の形でスペースを埋めるのですが、オーストラリア代表のフォワードは守備でもあまり下がらず、サイドの守備はワイドの選手が担当し、その後ろはセンターバックがずれてカバー。ディフェンスラインにカバーに入る他の選手も見当たらず、最終ラインにおいて広い広いグラウンドの横幅を3枚だけで埋めようとするのですからそりゃ無理があります。日本代表は恐らく試合前からの約束事であるサイドからの攻撃+ゴール前でファーに離れていく動きを繰り返し得点のチャンスを伺い続け、見事先制点に結び付けます。
前半41分、左サイド長友佑都選手が一旦切り込んでからファーサイドへのセンタリングに対しタイミングよくマークを外してフリーで走りこんだ浅野拓磨選手がボレーでゴールに流し込みます。日本代表1-0オーストラリア代表
後半に入っても、ディフェンスラインから中盤をメインにサッカーをしようとするオーストラリア代表に対し中盤までは自由にやらせて最終ラインに選手を配置して勝負する日本代表。オーストラリア代表はサイドチェンジや縦パスやスルーパスなどゴールに向かうボールの動きがいずれもイマイチなプレーが続き、狙い通りのサッカーなんだけどボールがゴールに近づかないから狙い通りの結果が出ない状態で時間だけが過ぎていく。
サッカーはミスのスポーツなのでどこかでミスが起こるものです。後半37分、原口元気選手がプレッシャーをかけてオーストラリア代表のミスを誘発。パスを受けて左サイドから切り込んだ井手口陽介選手のロングシュートは見事にゴールに突き刺さり日本代表は待望の追加点を上げます。日本代表2-0オーストラリア代表
自分たちのサッカーが否定されるような試合展開にメンタル面のダメージも計り知れないオーストラリア代表。日本代表は勢いに乗ってオーストラリア代表をシャットアウトし試合終了。いよいよ来年のロシアワールドカップへの出場権を手にすることができたのでした。
サッカーとしては弱点がたくさんあった日本代表ですが、そこを有効活用されないと見込んだ賭けに勝ったため危なげなく勝利を収めました。しかし、ワールドカップ本戦ではこのサッカーは通用しないと思うべきであり、得点パターン(というか攻撃パターン)の貧弱さもこれから改善が必要なのは言うまでもありません。しかし、今日の試合において日本代表の状態とオーストラリア代表の状態を見比べた中では結果を出すための見事な戦略であったといえるものでしょう。
この結果を以て日本代表の未来が見通せるというようなものではありませんでしたが、今できることを確実に全うしたことが最良の結果につながったと思います。この調子でぜひ更なる高みへとつなげていってほしいものです。
川島 永嗣 5.5 あまり安定しているようには見受けられなかったが守備機会の少なさもありしっかりシャットアウトで試合を閉める。
昌子 源 6.0 クラブでのプレーのように前に出なかったのは監督の指示か。空中戦にも強く役割を確実にこなす。
長友 佑都 6.5 豊富な運動量は健在。今日の戦術であれだけ攻撃に関われるのはさすが。
酒井 宏樹 6.5 高さも武器に攻守に貢献。外も中もよく守った。後半26分のクリアは日本代表に勝利を呼び込んだ。でもなんだかどんどんセンタリングが下手になっていっているような…
吉田 麻也 6.5 いいカバーリングをしていたがボールを奪った後なんだかドタバタしていた。空中戦でしっかり存在感をアピール。
井手口 陽介 7.5 運動量が桁外れ。小さいミスはあったが終盤までロングキックの精度を維持してチームに大きく貢献。クラブでは蹴るところに迷っているようなときがあるが、代表では思い切ってプレーできているようだ。
山口 蛍 6.0 目の前の相手に対する守備はさすがの一言。足元を狙われるようになって無理しなかったのもよかった。
長谷部 誠 6.5 攻撃ではかなり狙われていたが、例えボールを奪われたとしてもしっかり取り戻す責任感がチームを救った。守備の時オーストラリアのフォワードについていたサイドバックとマークの受け渡しにどうしても時間がかかるためスペースを使われそうだったが、そんな無茶ぶりにも何とか応えてみせた日本代表の皇帝。
乾 貴士 6.5 守備でもスペースをつぶし、攻撃においてもワントップの大迫選手のフォローでしっかり貢献。自慢のテクニックはあまり披露できなかったかもしれないが、チームへの貢献はいつも以上。
大迫 勇也 7.0 孤軍奮闘の中しっかりと役割を果たす。前半は追い越していく選手が少なくミスパスも目立ったが体を張って最後までよく頑張った。日本代表の攻撃は全て大迫選手を経由していく。得点という形ではあまり表れないかもしれないけど日本代表の得点は全て大迫選手のおかげと言ってもいいくらいに貢献している。
浅野 拓磨 5.5 得点は決めたがそれ以外ではチームの足を引っ張る場面が多かった。足が速いせいか普段のポジションの関係か、守備で先にスペースを埋めておくイメージがあまりない様子。攻撃においては自分がボールをもらう動きは多いが、相手ディフェンスを引っ張って味方のためにスペースを空ける動きがほとんどなく、周りがスペースを空けてフリーになっても気が付かずにチャンスをつぶしてしまっていることも多い。
原口 元気 6.0 守備から入るいつも計算できる選手。なぜか海外に行ってから技術的にどうかというようなプレーもみられるのだが、それ以上にサッカー選手として成長しているように思える。
岡崎 慎司 6.0 試合終了間際に投入された意味をちゃんと理解し相手を追い掛け回す。日本代表の戦術が大迫選手ワントップで構成されているため本人のプレーをすると先発起用は厳しいと思われるが、良い選手なので何とか2トップかサイドでの起用を検討してもらいたい。
久保 裕也 5.5 出場時間が短くほとんど試合に関わらずに試合終了。交代出場することでチームに貢献しているんだからこちらもしっかり採点します。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督 7.0 オーストラリア代表の基本戦術であるビルドアップに対しあえて穴だらけの対策で挑み、結果的にそこを突かれることなくうまくボールの動きを誘導して勝利を掴み取った。見事賭けに勝った形だが、本人はドキドキものだったのではないか。目に見える(試合に影響しない)弱点に動じることなくサッカーの本質を見極め勝利という結果に拘る姿勢は日本代表の監督として尊敬に値するものだった。